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アジア: 観光業界における グリーンイニシアチブ

贅沢な旅行とサステナビリティは相反するコンセプトのように思われますが、アジアの多くのホテルがその開発や運営においてサステナブルで環境にやさしい活動を推進しており、今や環境に配慮した観光がホスピタリティ業界の主流となっています。実際、国連世界観光機関の調査においても、国境を越える旅行によって排出される二酸化炭素は全世界排出量の5%であると報告されています。アジアの素晴らしいホテルやリゾートでは、エコロジーを基本戦略のひとつに掲げ、森林再生プログラムやエコリゾート、エネルギー効率の高い設備の導入などに積極的に取り組んでおり、二酸化炭素排出量を削減しながら快適なサービスを提供しています。

1. マリーナベイ・サンズ―シンガポール

シンガポール随一のグリーンマークビルとして認定されている、統合型ラグジュアリーホテルリゾート。3棟からなる55階建てのタワーは、頭上に公園が広がる屋根でつながっており、年間およそ4,500万人が訪れています。

1,880万ドルを費やして導入したインテリジェントビル管理システムにより、水とエネルギーを自動的に資源として再利用。エレベーターは自動充電により従来のものよりエネルギー消費量を40%抑えることが可能になり、ホテルの象徴的なインフィニティプールには節水システムが採用され、2,561室ある全ての客室にエネルギー効率のよいLED電球を使用し、省エネ型の冷水式空調システムが設置されています。またサンズエクスポとコンベンションセンターの「グリーンミーティング」スペースでは、紙資源、人件費、輸送費を削減するため、電子販売ツール、リサイクル可能なオフィス用品、使い捨てではない食器やガラス製品などを使用しています。

持続可能で資源効率に優れ、気候変動に強い国を構築するというシンガポールの指針を全面的に支持するマリーナベイ・サンズは、2020年の取り組みにおいては「気候変動への対応」「水・廃棄物の循環型社会」「持続可能な食と文化」「キャパシティの構築」の5つに焦点を合わせました。これらは企業としてのサステナビリティに対する積極的な取り組みと二酸化炭素排出量削減という使命を掲げながらも、顧客には最高のおもてなしを提供するというコミットメントでもあります。

2. グランドハイアット―ジャカルタ、インドネシア

グランドハイアットは、緑豊かな熱帯樹に囲まれた環境にやさしい5つ星ホテル。気候変動や環境問題に対処するための持続可能な取り組みとして、45枚もの太陽光発電パネルを設置したパイオニア的存在です。他にもエネルギー効率の良いLED電球に変え、各所にモーションセンサー照明を設置するなど、環境に配慮した省エネ活動を推進しています。

ソーラーパネルは毎日最大20室の客室へ電力を供給し、30年間で400トンの二酸化炭素排出量を削減しています。これは170,000リットルの車両用ガソリンに相当します。使い捨てプラスティックの使用量なども断続的に削減し、環境にやさしい製品に変更しています。またデータ監視システム「エコトラック」の導入により、ハイアットが経営する世界中のフルサービスホテルのエネルギーと水の使用量、廃棄物や温室効果ガスの排出量を可視化し、環境に対する問題意識を喚起しています。

2021年には気候変動、水の管理、廃棄物、また地域社会への継続的な取り組み戦略を見直し、グランドハイアットは常に独自の環境に配慮した空間をゲストに提供しながら、サステナブルな未来を届ける事にコミットしています。

3. ソネバキリ―タイ

自然の熱帯雨林と離島に囲まれた環境に優しくラグジュアリーな5つ星リゾート“ソネバキリ”は、「スローライフ」の哲学である、サステナブル、ローカル、オーガニック、ウェルネス、ラーニング、インスピレーション、楽しさ、体験を掲げ、いわばラグジュアリーであると同時に持続可能なツーリズムの見本のような存在です。持続可能性を優先する100%カーボンニュートラルなこのリゾートは、タイに50万本以上の木を植え、300エーカー以上の生物多様性エリアを生み出し、二酸化炭素排出量を25万トン以上削減。また食事も、リゾートのオーガニックガーデンで自然に育てられた食材を使った料理を提供しています。

積極的なリサイクル、有機農業、スマートコンポスト、水のリサイクルシステムを通して、環境、社会的、さらには経済的にもポジティブな影響を与えるグリーンイニシアチブプロジェクトを段階的に推し進めています。2020年2月には、エコセントロと水のボトリング工場を開設。提供される全ての飲料水が濾過され、ミネラル、アルカリ化され、再利用可能なガラス瓶に瓶詰めされます。

ソネバキリはカーボンニュートラルを実現し、統合的で責任ある観光業の運営を主要な経営戦略で約束しています。それは自然環境を保護しながら、ゲストにはここでしかできない体験を提供することに他なりません。

4. ザ ダタイ ランカウイ―マレーシア

1000万年前の熱帯雨林の中心に位置する豪華なエコツーリズム、ザ ダタイ ランカウイはEarthCheck Eco認証プログラムに世界で初めて参加しました。

この認証プログラムは、持続可能な観光組織が、環境に与える影響を軽減し、地域コミュニティを最大限にサポートしながら5つ星のリゾートにふさわしい静かな空間と豪華な設備を備えたゲストに最上級の体験を提供する事を目的としています。

環境にやさしい取り組みとして、パーマ カルチャー ガーデンを設置したほか、グライハウストレイルでは、畑から食卓まで持続可能で新鮮な食糧生産を体験できるセルフガイドツアーを実施。オーガニックウェルスセンターには、水牛の糞尿や生ゴミを分解してバイオ肥料を生成する有機ワームファームを備えており、コンポストでは毎日300〜700kgの食品廃棄物を堆肥化しています。また下水処理場からの水を湿地帯にポンプで送りこみ、植物によって浄化するろ過システムを使用しています。ザ ダタイ ランカウイは、長年にわた持続可能性への取り組みにより、地域の環境を保護しながら、世界中から訪れる旅行者に国際的にも質の高いサービスを提供し続けてきました。

5. ソンサー プライベート アイランド―カンボジア

手つかずの自然が満喫できるコ・ロン島のエコ リュクスリゾートであるソンサーは、自然環境からインスピレーションを受けたリゾートの美学と、リサイクル、堆肥化、持続可能な地元の素材を使った建築など、環境に優しい様々な取り組みに誇りを持っています。

建設資材の輸送時に排出される二酸化炭素を最小限に抑えるため、ヴィラの構造材に地元の砂岩や、近くの河口で解体された船の木材を再利用したり、リゾート内の家具は地元のビーチに流れついた、状態の良い流木から作られています。また、オーダーメイドでキャンバスに描かれ、リサイクルされた漁船の木材で額装されたアート作品もいくつもあります。

ソンサー プライベート アイランドは、持続可能な観光とホスピタリティを提供することにおいて一切妥協することなく、ここでしか体験できない環境を提供しています。

出典

https://www.unwto.org/news/tourisms-carbon-emissions-measured-in-landmark-report-launched-at-cop25

https://www.marinabaysands.com/content/dam/singapore/marinabaysands/master/main/home/environmental-sustainability/commitments/MBS-Sustainability-Highlights-Report-2019.pdf

https://www.ibcsd.or.id/ibcsd-events/sustainable-business-award-2017/

https://green-hotel.org/2015/09/11/a-luxury-eco-resort-in-thailand-2/

https://sg.asiatatler.com/life/eco-friendly-malaysian-hotels-on-our-travel-list-this-year

https://www.songsaa-privateisland.com/en/blog/2019/06/17/design/the-sustainable-design-of-song-saa/73-16/

https://soneva.com/soneva-jani/soneva-jani-chapter-two

中国: プロジェクト特集: 天目里 杭州 (OōEli Art Park, Hangzhou)

昨年、ピューリッツァー賞受賞者である世界的建築家レンゾ・ピアノの手により中国浙江省杭州市に誕生した、約23万平方メートルにも及ぶ広大な敷地面積を誇る象徴的な総合アートパーク、天目里(OōEli Art Park)についてご紹介します。

オフィス、美術館、アートセンター、ショーフィールド、デザインホテル、アートコマースなどを包括するこの壮大なプロジェクトは、レンゾ・ピアノ、JNBY社、GOA社の3者の共同開発によるものです。とりわけGOA社はパーク全体のエグゼクティブ・デザイナーを務め、7年以上の歳月を費やして、広範囲にわたるプロジェクトを組織力と技術力で牽引してきました。

デザイン・コンセプトのポイント

天目里は、「空間」と「コミュニケーション」をキーワードに、エリア内で様々な活動が同時に行えて、また芸術鑑賞的な意味でもオアシスのようにくつろげる「都市の憩いの場」をコンセプトにつくられました。 当初、レンゾ・ピアノはこのプロジェクトを、やわらかい芯をしっかりと果肉で包んだリンゴのような一つの固体として考えていましたが、予定していた11階建てから9階建てに高さを低くしたり、7階と8階のテラスを後退させることで、隅々まで燦燦と日差しが降り注ぎ、風が吹き抜ける広場へとプランを変更しました。

動線においては、中庭を囲む4つの場所に8台の乗り換え用エレベーターを設置。利用者はまず地下駐車場から地上に出て、中庭を通ってオフィスビルに入らなければなりません。ガラスのエレベーターがゆっくりと地上に上がってくると、公園の最大の見どころである中央広場に広がる豊かな自然が迎えてくれます。また季節ごとに様々なアーティストを招いて、エレベーター内でも音楽やアートを鑑賞できるような仕掛けで、来場者を楽しませます。

ベールを脱いだグリーン・コア

天目里が誇る「グリーン・コア」。地上に広がる中庭、青々と伸びる草木、太陽光を反射させるプール、テラスに並ぶ植木鉢、屋上のティーガーデンなど、いくつもの高さの異なるグリーンを組み合わせた非常に立体的な構造になっています。植物景観エリアは、アメリカの植物生態学のエキスパートであるポール・ケップハートのデザインによるもの。この緑の景観は、地下から地上へと広がり、建物の外壁を伝って屋上へと上っていきます。また5番目のファサードとして、屋上には杭州の代表的な樹木である緑茶の木が植えられています。この茶園のために選ばれた龍井43号と安吉白茶は自然豊かな場所でも都市部でも育てられる非常に適応力の高い品種で、自然と都市の共存を表しています。

出典: 
https://www.newsbreak.com/news/2139362118784/oeli-art-park-renzo-piano-building-workshop

インテリアアーキテクト、ナターシャ・アッシャーが語るサステナビリティの秘訣

NUDE designの創設者兼ディレクターであるナターシャ・アッシャーは、アジアのホスピタリティ業界や不動産業界の大手企業のデザインを手掛けてきました。香港出身で、これまで数々の賞を受賞してきたインテリアアーキテクトのナターシャが、自身のプロジェクトにおいていかにサステナビリティを実現しているのか、その秘訣を語ってくれました。

「一から家を建てる際には、廃水の再利用、空気循環、太陽光発電装置、効率的な冷暖房システムなど、廃棄物管理のシステムづくりをお勧めします。リサイクルされた製品は、コストが高かったり選択肢が限られている場合も多いので、綿、麻、亜麻、リサイクルガラス、セラミックや粘土のタイル、本革など、二酸化炭素排出量が少なく、有害物質の発生が少ない天然素材を使うのが最適です。」

またエネルギー管理においては、家やビルの窓を二重窓や三重窓にして、温度を一定に保つことでエネルギーの無駄を省くことを提案しています。さらに、省エネ機能付きのエアコンや空気循環用のシーリングファンの設置や、オイルラジエーターで室内を暖めるなど、シンプルで実現しやすい方法はいくつもあります。

照明は発熱量が少なく寿命の長いLED電球を使用します。しかし、電球自体はリサイクルできますが、LED内蔵型の照明器具は電球が切れても交換ができず廃棄することになってしまうので注意が必要です。

サステナビリティを実現する上で、廃棄物管理は非常に重要なポイントなので、どのプロジェクトにおいてもまず廃棄物削減プランを考えて、それをベースに全体を設計するそうです。例えば天然石や決まったサイズに加工された天然素材を使用する場合には、サイズやパターンの比率を緻密に計算して、最も効率的に無駄を出さないようにするといったように。

場合によってはヴィンテージの家具を再利用したり、クライアントにとって歴史的価値や思い入れの深いアンティーク家具を使用するのも好きだと言うナターシャ。専門的な視点だけでなく個人的な嗜好を取り入れることも時に必要だと考えています。一方でさほど大掛かりではない改修工事の際には、作り付けの照明器具で破損もなく特別な仕様のものでなければ、そのまま使用して廃棄物や不要なコストを抑えるケースもあります。

環境を守ることとサステナビリティを何より重要だと考えるナターシャは、食材選びから洋服、一般消費財など身の回りのあらゆることにおいてその姿勢を貫いています。「これはもはや個人レベルの問題ではなく、サステナビリティと環境保全を推し進めるためには、政府が旗を振らなければなりません。私たちはコロナによって、コミュニティが世界に与える影響の大きさを思い知らされました。環境問題は、決して他人事ではありません。本当に悲惨な未来が現実のものにならないように、今こそ真剣に取り組みましょう。」と、力強く締めくくりました。

Photo Credits: Lusher Photography

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