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遊休資産利活用とSDGs

10月から12月の2ヵ月間、4回に渡り『遊休資産 廃校跡地の有効利活用』無料WEBセミナーを開催しました。近年、少子化による児童生徒数の減少や市町村合併などの影響により、公立学校が毎年500校程度廃校となっていることは皆さまも既にご存じかと思います。

本来ならば、地域にとって貴重な財産でありまた、地域の象徴的な存在でもあるはずの『学校』が、地域内で再活用のニーズが見出せず遊休化してしまうということは、地域にとって大きな損失であり、地域の安全や環境面においてもマイナスになっています。その様な背景からも廃校となった校舎の新たな利活用を見出すことは官民連携一体となり取り組むべきプロジェクトの一つとなっています。ここで重要なポイントとなるのは「SDGs」の促進も踏まえた上でのアプローチや戦略立案となっているかということです。人類と未来にとって極めて重要なアクションとして2015年9月にニューヨークの国連本部で開催された国連総会で採択されたこの「SDGs」ですが、今やあらゆる価値創造におけるベースと言えます。

そこで今回は、世界のSDGs戦略事例を通し、遊休資産利活用のキーワードを探りたいと思います。

■SDGsとは

2015年9月「私たちの世界を変革する:持続可能な開発のための2030アジェンダ/Transforming Our World: The 2030 Agenda for Sustainable Development」と名付けられた文章が国連総会で採択された。これはSDGs(Sustainable Development Goals)の名称で使われている持続可能な開発目標が記された文章です。“誰一人取り残さない/leave no one behind”を理念に2030年に向けた17のゴールと169のターゲットが設定されています。文章の冒頭には“人間・地球・繁栄・平和・パートナーシップ”全ての側面が絡み合うことで2030年以降の未来が見えてくることを謳った5つのキーワードが掲げられています。

◆5つのキーワード➡ https://www.unicef.or.jp/kodomo/sdgs/preamble/

◆17のゴールはこちら➡ https://www.unicef.or.jp/kodomo/sdgs/17goals/

■遊休資産の観点からSDGsを考える

#1.地方創生×SDGs 

SDGsのゴールである持続的に発展する世界、社会、地域コミュニティを考えるにあたり日本の地域社会、とりわけ地方の農村・中山間地域において急激な過疎化が懸念されています。地域の産業衰退や生活環境の悪化は、人口減少を加速化させ、最終的には地域コミュニティの衰退や集落消滅の危機を招くことにもつながります。地方自治体が行ってきた、人口増加を前提としたこれまでのような住民サービスの提供は、もはや困難となりつつあることが明確となった今、限られた人的・物的資源を最適な形で活用し、地域社会の維持と持続可能なコミュニティづくりに向けた新たなモデルを確立することが求められています。

2014年5月、「日本創成会議」(増田寛也座長)は、全国1800自治体のうち半数以上(896)が2040年には「消滅」する可能性があるとのレポートを発表、大きな衝撃を与えました。これを受け政府は、同年9月に「まち・ひと・しごと創生本部」を設置、地方創生への取組を本格的化させました。以降、地方創生においてSDGsを積極的に活用する方針が多く打ち出されています。

#2.社会・経済・環境×SDGs

SDGsは、「経済」「社会」「環境」を不可分のものとして捉え、それぞれが抱える課題をインプットとし、課題を解決しながら新たな価値をアウトプットしていくことです。ここで弊社の様な業態、業種が最も得意とする「デザイン思考/Design Thinking」の考え方が生きてくると考えています。これは、デザインの制作過程だけで活用されているわけではなくAppleやGoogle、P&Gなどのグローバル企業では、早くから経営や事業を展開していく上で積極的に取り入れており、日本企業でも近年、市場構造の変化を背景に一段と関心が高まっている思考法です。大きくは5つのプロセスで構成されます。

  • 観察・共感(Empathize)
  • 定義(Define)
  • 概念化(Ideate)
  • 試作(Prototype)
  • テスト(Test)

我々の様な企業や団体など、いわゆるステークホルダーが地域住民や自治体などから課題を吸い上げ、課題やニーズを定義しアイデアを出す、そのアイデアを元にプロトタイプを作成、実際に顧客やユーザーにテストを行いながら試行錯誤を繰り返すことで新たな製品やサービスを生み出し、課題解決につなげるというプロセスです。デザイン思考とは、単に表面化した問題や課題を解くのではなく、製品やサービスを使うユーザーの立場に立ち考え、根本的な解決策を探るのが特長と言えます。

以上の点からもSDGsのベースとなる“持続可能性”は“遊休資産利活用”との相性が良いと言えます。

■世界のSDGs

世界ではレジリエンスや共生をキーワードとしたSDGs実績が多数あります。それは個人、コミュニティ、組織、ビジネス、社会システムが社会課題に適応しながら持続的な成長を遂げる姿であるとも言えます。発展に伴う歴史的背景や異なるバックグラウンドを持つ地域住民にいかに共通のアイデンティティや愛着を持たせるかという課題に対し“協働・共創”を掲げ地域住民だけではなく企業やNGO、大学や第三セクターなどのステークホルダーが連携を図り、課題解決に繋げていくことです。ここでは、世界のSDGsとしてデンマーク、ヴァイレの事例をご紹介します。

●ヴァイレ/Veile(デンマーク/Denmark)

 

 

 

 

 

 

ヴァイレはヨーロッパ大陸側のドイツと国境を接するユトランド半島南部に位置、北欧諸国で唯一「100のレジリエント・シティーズ/100RC」に選ばれた街です。この「100RC」ですが2013年、アメリカのロックフェラー財団が開始したプロジェクトです。世界中の都市から100都市を選定し、財団の支援の下レジリエンス戦略を策定し、国際的ネットワークを構築するというものです。日本からは京都市と富山市が選定されています。
さて、ヴァイレに話を戻します。2016年、“皆が共に、持続可能な街”をスローガンに戦略が策定されました。特に市民参加、デジタル化、ソーシャルレジリエンス構築の3つを注力分野としています。近年ではIT企業やスタートアップ企業が多く誕生し経済とイノベーションの源泉となっています。スマートシティ関連サービスも多数生まれ、また、2012年にはデンマークで最も難民との社会的結合が進んでいる街として表彰もされています。
そんなヴァイレが抱える課題は大きく5つです。
① 気候変動と洪水リスク(近年、洪水、ゲリラ豪雨が多数発生)
② 都市化(交通量増加による自然環境への影響)
③ インフラへのニーズ増加(デジタルライフを支えるIT、既存インフラの老朽化)
④ 産業構造の変化、グローバルエコノミー(地域雇用への影響)
⑤ 人口動態の変化(社会的結合の弱体化)
そして、課題へのアプローチとして以下4つの戦略を掲げました。
❶ 共創が生まれる都市
❷ 気候変動に柔軟な都市
❸ ソーシャルレジリエント都市
❹ スマートな都市
先ず「共創」ですが、これは、“市民のエンゲージメントと共創”としてヴァイレが最も注力しているものです。具体的にはウェルフェア(福祉)ラボラトリーを立ち上げ、施設に住む障害を持つ市民と各分野のエキスパートのアート祭開催などを実施することで支援を行うなどです。また、2040年竣工予定でヴァイレが抱える課題とそれらの解決法を展示するエキスポの設置、各ステークホルダーとの協働による解決策の実践場(リビングラボ)の開発も進んでいます。
次に「気候変動」です。この、ヴァイレという名称が“フィヨルド”を意味する言葉が由来になっていることや12世紀、ヴァイレ川の支流にある谷間に人が住み着いたということからも、水が常に街のシンボルであり生活の一部であることが分かります。しかしながら、近年の気候変動により街に面するフィヨルドが2050年までに25cm、2100年には69cmも上昇すると試算されました。ヴァイレにとってシンボルである水が災害リスクを生む要因となっているのです。そこで、水害のリスクを最小限に抑えることを目的にフィヨルドに面する水辺の再開発を行い、そこに水位コントロール設備を備える計画が進んでいます。また自転車使用促進にも力を入れています。自転車の使用によって大気中のCO2削減はじめ、市民の健康とウェルビーング向上、ガソリン車が及ぼす社会的コスト削減も図れるため、街の中心部に自転車専用道路を整備するという計画も進んでいます。
最後に「レジリエントでスマートな都市」ですが、これは、言い換えると増加が続く移民と融合しながら街の安心、安全の確保、若い世代と社会とのつながりを強固にし、共有可能なリソースを官民一体となり作ることを目指すことです。
一例を挙げると、庭を持たない市民に畑を貸し出し、環境負荷が少ない有機作物栽培の機会を提供する「育てるヴァイレ」と名付けられた市民農園プログラムや市内の警察、学校、看護師、実業家、カウンセラーが共同で犯罪撲滅や不審者特定のためのプログラムやツールを共同開発するプログラムなど、新旧市民が街へのアイデンティティを持ち社会とのつながりを強固にすることを目的とした様々な取り組みが企画実行されています。
ヴァイレでは共創の実現に向け民間、行政、研究機関、第三セクターなどから異なる専門知識を持つ人々が集い、課題に対応するための新たなアイデアやサービスを思考、開発しています。そこからは、単なるソリューション開発ではなく、地域住民に寄り添い、対話する様子が見えてきます。
リビングラボ形式を用いたデンマークの「官民協働の場」作りはじめ、デンマーク、ヴァイレが進める様々なアプローチは遊休資産利活用にとって大変、参考になるものと言えます。

◆出典元
https://www.hanmoto.com/bd/isbn/9784761527839
https://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/oda/sdgs/about/index.html
https://www.unicef.or.jp/kodomo/sdgs/17goals/

不思議なパワー宿る世界の建築物

日本には神社・仏閣など神や仏を祀る社が多数あります。神社と寺院の両方を含めての呼び方として、『神社仏閣』という言葉が使われますが、これは神(かみ)の社(やしろ)仏(ほとけ)の閣(たかどの)と分けて読むことができます。社は、祠(ほこら)の意でもあり、また閣(たかどの)は、いわゆる立派な御殿を指す言葉です。要するに両方とも建物を意味していることがわかります。つまり、神社仏閣とは神様を祀っている建物と仏様を祀っている建物だと言うことができ、最初の二文字で神道(神社)を、続く二文字で仏教(寺院)を表し神社及び寺院を総称しています。

特定の神様や宗教を持たず森羅万象に対し見えないパワーを感じることが多い日本人特有の感受性と言っていいかは分かりませんが、『神社仏閣』が開運に導く場所(パワースポット)として取り上げられることも度々あります。『神社仏閣』を訪れる機会も多くなるこの時期、今回は国内外のパワースポットをご紹介させて頂きます。

1.金運UP

■富の泉/Fountain of Wealth(シンガポール) 

 古くから交易拠点として栄え、国際都市であるシンガポール。シンガポールのマリーナ地区サンテック・シティ・モールの敷地内にある『富の泉(Fountain of Wealth)』(1995年建造/1998年ギネスブック認定)は風水を基に設計された世界最大の噴水です。風水では水は財力や金運の象徴とされるため、周囲の高層ビル群を指に見立て掌で金運を掴む様子が設計されたと言われています。右手でこの噴水の水を触りながら3周円を描くことで、金運や財力が上がるパワースポットとして観光名所となっています。1点、噴水に触れられる時間が決まっているため施設のHP等での事前チェックをお忘れなく…。

 

2.仕事運
■チャージング・ブル/Charging Bull(アメリカ)

彫刻家アルトゥーロ・ディ・モディカ(Arturo Di Modica)氏により1986年のブラックマンデー(NY株式暴落)で落ち込んだアメリカ経済の株価上昇を願い制作されたブロンズ像の雄牛。この躍動感溢れるシルエットだけでもパワーが漲っていますが、更にウォール街の証券マン達が証券相場の「bull market(ブル・マーケット)」と「Bull(雄牛)」を掛けて毎朝出勤時に株価上昇や仕事の成功を銅像に触りお願いしていたことが広まり、パワースポットとして世界的にも有名になったとのことです。はじめは1989年12月、ニューヨーク証券取引所前にゲリラ設置されましたがその後、人々の熱い抗議により現在のボウリンググリーンに落ち着いたとのこと。そういう、逸話にも底知れぬパワーを感じますね。

3.健康運

■マチュ・ピチュ遺跡/Machu Picchu Ruins(ペルー)

ユネスコの世界遺産にも登録され世界的にも有名な観光地の一つでもある「マチュ・ピチュ遺跡」は世界で最も美しい古代遺跡の一つとされています。標高2,280mの頂上にあるため山裾からは決してみることのできないため「空中都市」とも呼ばれその絶景は見る者の心を清め、浄化すると言われています。未だに何故、インカ帝国の都クスコの北西約114kmの隔絶された山中に都市が築かれたのかさえ解明されていないマチュ・ピチュ遺跡の中で最も高い位置に置かれた花崗岩『インティワタナ』(=「太陽をつなぎとめる場所」)は最大のパワースポットと言われており、石の上に手をかざすと神聖なる力を受け取ることができるとのこと。

4.恋愛運

天后廟/てんごうびょう/Tin Hau Temple(香港)

『天后廟/Tin Hau Templeは香港各所にある寺院で、実に様々な神様が集う場所です。中でも最大なのはレパルス・ベイ(香港島の南に位置するビーチ)にある天后廟です。「月下老人」という神様が愛と結婚を預かることや月下老人の横にある「姻縁石」を撫でると「1,000里離れた男女でも、縁があれば巡り会える」という言われがあるなど恋愛成就のパワースポットとして多くの人が訪れるとのことです。日本の神様とは異なり非常にポップでカラフル、テーマパークのような神様が何とも香港らしいと感じます。が、これは子供にも神様とはどの様な存在なのかを分かりやすく体現し、風水を基本とした宗教観を様々な姿・形に変えて見せることで、神聖な存在である神様を身近に感じさせてくれていると言えるのかもしれません。

因みに、レパルスベイはハリウッド映画の名作「慕情」の舞台にもなった場所。気になった皆さまは是非、映画もご覧になってはいかがでしょうか。

最後に、「とにかく総合的に開運したい!」という皆さまに

5.開運

■高山稲荷神社(日本)

青森県つがる市にある「高山稲荷神社」は日本海の眺望素晴らしい高台にあり、百有余段の石段を登り拝殿に出ると眼下には龍神を祀る龍神宮、周辺には神苑、その先には幾重にも連なる千本鳥居と美しい日本庭園が広がります。この千本鳥居を抜けると祠や神様の使いであるお狐様が並び別世界へ迷い込んだ様な幻想的な景色が飛び込んできます。

五穀豊穣、海上安全、商売繁盛の神様として大変ご利益があると言われていますが他にも家内安全、漁業、道中守護、病気平癒などあらゆる信仰で知られており、霊験あらたかな稲荷神社として日本各地から多くの人が訪れるとのことです。

 

国内外のパワースポットいかがでしたか?新型コロナウィルスの影響で移動や渡航制限が引き続く中ではありますが、世界のパワースポットをご覧頂き、皆さまには少しでもHappyな気持ちになって頂けましたら大変嬉しく思います。

◆出典元

https://sunteccity.com.sg/

http://www.chargingbull.com/

https://worldheritagesite.xyz/machu-picchu/

https://www.hongkongnavi.com/miru/125/

https://takayamainari.jp/top.html

 

文化や歴史と共存・共生する世界の学校建築

ここ数カ月で“ハノイ建設大学”や“ホーチミン建築大学”とのウェビナー開催や廃校の利活用をテーマにしたウェビナーの開催など「学校」に関連する機会を頂くことが増えていると実感しています。

これは、人が集い、そこに息づく都市を形成する上で、「学校」という存在が非常に重要な役割を担っていると言えます。教育制度の中核的な役割を果たす機関である「学校」ですが「建築」という側面から見てみると、地域の文化や歴史、慣習などと共存・共生しているとともに機能性、芸術性ともに優れた建築物であることが分かります。

そこで今回は、世界に数ある学校の中で文化や歴史との共存・共生が感じられる学校をご紹介させて頂きます。

 #1.V. ロモノソフ モスクワ国立大学/M. V. Lomonosov Moscow State University(ロシア)

 1755年世界的に有名な科学者ミハイル・モロノーソフの主導により設立されたロシア最古で最大、また世界でも有数の科学・学術センターの一つでもある大学。(モロノーソフは、ガラスづくりの技術にはじまり、物理および化学の理論構築、天文学、地理学の研究、文法書、歴史論文、頌詩の執筆、詩の翻訳、モザイク・パネルの開発を行い、かのレオナルド・ダ・ヴィンチを引き合いにだされることが多かった世界的に有名な科学者。)

本館は「スターリン建築」と言われる建築様式を採用。この建築様式の建物がロシアに7つ存在することから通称「セブンシスターズ」と呼ばれています。(その名の通りヨシフ・スターリンが独裁国家の象徴として作らせたもの。)その「セブンシスターズ」の中で最も壮大だと言われるのがモスクワ国立大学の本館です。高さは240m、32階建て、4万もの部屋があり約6,000名の収容が可能。現在は主に学生寮として使われています。因みに、230ヘクタールの広大な敷地内には校舎、学生寮のほか公園、植物園、天文台など27の主要な建物が入ります。

 

 

 

 

 

 

#2. メキシコ国立自治大学/Universidad Nacional Autónoma de México(メキシコ)

創立は1551年。1949年より60人を超える建築家や芸術家がキャンパスの設計やデザインを行い1552年に完成。アメリカ大陸で2番目、メキシコで最も古い大学です。メインキャンパス(大学都市中央キャンパス)は2007年ユネスコ世界文化遺産に登録。メキシコの伝統文化と近代建築が融合したキャンパス内には各学部や研究所だけでなく博物館、オリンピックスタジアム、スーパー、劇場、映画館などが入り大学都市が形成されています。中でも目を引くのが中央図書館(Biblioteca Central)の壁画。壁画としては世界最大級と言われ東西南北の4面全ての壁には「アステカ文明」、「スペイン植民地時代の圧政」、「太陽と月・宇宙・科学・政治」、「メキシコ国立自治大学」をテーマにしたモザイク画が描かれています。(壁画家でもあるメキシコの建築家フアン・オゴルマンの画。)1920年代に起こった壁画運動(革命の意義やメキシコ人としてのアイデンティティーを民衆に伝えることを目的に起こる)の背景を知った上でこの壁画を見ると、メキシコ独自の芸術性とメキシコ近代建築の新たな魅力を感じることができます。また、学長棟の壁にも「民衆から大学へ、大学から民衆へ」と題し立体的で迫力ある壁画が描かれています。(メキシコが誇る壁画家ダビド・アルファロ・シケイロス作。)巨大なキャンパス内には歴史的・文化的価値の高い施設や空間、ユニークな建築物など濃厚で貴重な体験ができる場所がまだまだ存在します。

 

 

 

 

 

都市を形作る上で、大変重要な役割と意味を持つ“学校”。今回、学校を“建築”という側面から見たことで、教育者、建築家、デザイナーなど実に多くの人々の熱い思いが集約され、今もなお新たな歴史を刻み続けていることを知ることができました。
廃校利活用や再生・共生もまた、今まで積み重ねてきた歴史やそこに息づく様々な思いを大切に守り、受け継ぎながら、これから先の更なる活かし方を創造することだと言えます。新たなものを生み出すことは、言い換えるならば今既にある歴史を守ることだとも言えるのではないでしょうか。

 

◆出典元
https://www.msu.ru/en/
https://www.unam.mx/
http://whc.unesco.org/es/list/1250
https://bibliotecacentral.unam.mx/index.php/nuestro-mural
https://whc.unesco.org/en/list/1250/

海外と日本の建物・デザイン・空間

世界を旅する醍醐味として、その土地ならではの美しい景色や文化、風習、食、人々などに触れられることに加え、歴史的価値が高く壮大な建造物を目の当たりにできることが挙げられるのではないでしょうか。中でもイタリアの建造物は歴史的な価値、数共に世界でトップと言われています。

そこで、今回はイタリアを代表する建築物を紹介するとともに、イタリア人デザイナーFRANCESCO RISTORI氏にインタビュー。グローバルな見地から日本と海外の建築やデザインを考えます。

■#1.パンテオン(イタリア・ローマ)

芸術や建築など多方面で才能を発揮したミケランジェロが、『天使の設計』と賞賛した古代ローマ建築の神殿「パンテオン」はローマ帝国初代皇帝アウグストゥスの腹心アグリッパが紀元前25年に建設。80年に火災で焼失しましたがドミティアヌス帝とトラヤヌス帝により再建。118年から125年にかけハドリアヌス帝はパンテオンを空間・秩序・配置・光を追求した古典建築へと変貌させました。ドームの高さとロトンダ(円形の建物)の直径が完全な球の直径に一寸の狂いなく一致するのは偶然ではないでしょう。

その、パンテオンの円形構成は、天界と太陽に着想を得た設計でそれまでのギリシャやローマの寺院建築の主流であった方形造りの空間とは異なり高くなるにつれ小さくなる格間(ごうま)や壁は徐々に薄くすることでドームの重みによる下方への押圧力を減らし、物理的なストレスを基礎へ逃がしているという。

パンテオンの唯一の光源は、ドーム天井の「偉大な目」とも言われる円頂窓のみで、正午頃に日光が差し込むと、大理石を磨き幾何学模様に仕上げられた壮大な空間が美しく光り輝く。栄華を誇ったローマの面影を現代(いま)に伝え続けるパンテオンは、まさに歴史を感じる建築と言えるでしょう。

■フランチェスコ流!これを知ると「パンテオン」が100倍面白くなる!!

イタリアの記念碑には真実に基づいた神話があります。「パンテオン」の場合はローマの建築を讃美する神話として残っています。

パンテオン」が凄い建築と言われることの一つに、構造上の過負荷重を避ける為、普通ならあるはずのドームのキーストーンを設置していないことがあげられます。それにより空を見渡せるような大きな穴が開いています。多くの方は「雨が降ると浸水しないの?!」と思われるかと思います。

実際、土砂降りの際には雨が降り込んでしまいますが、煙突効果により降り込んできた雨が暖かい風により噴霧(ふんむ)されることで、内側が浸水した事はないと言われています。

それはもちろん、ローマ建築の優れた設計技術と煙突効果によるものですが、神話によって「パンテオンは雨でも濡れない。ローマ建築の技術は素晴らしいものである!」と広めたことも関わっています。

 ■#2.サン・ミニアート・アル・モンテ教会(イタリア・フィレンツェ)

1018年にアリブランド司教の指示により建設が始まる。こちらの教会はフィレンツェで初めてキリスト教殉教者に献納されたもの。殉教者は斬首されると首を脇に抱えふらつく足どりで丘に登り、自らの墓所となるこの地に来たと伝えられる。

ファサードは白を備えたカラーラ産の大理石が緑色の蛇紋石を引き立て美しさに拍車をかけている。1階には古典様式の神殿を思わせる意匠、エディクラ(石造または 木造 の飾壇)窓の頂部には13世紀のモザイク画があり、キリストが聖人を脇に伴い王座似つく図、ファサード最頂部には毛織物業ギルドを象徴する青銅の鷹が置かれている。内部の主祭壇には13世紀のモザイク画がきらめき、主祭壇に続く階段に挟まれた部分にはルネサンス期に加えられたミケロッツォによる十字架の礼拝堂がある。

トスカーナ地方ロマネスク建築の優れた建築の一つであり内部、外部ともに後のルネサンス建築に大きな影響を与えることとなった貴重な歴史的建築だと言えるでしょう。

■フランチェスコ流!

これを知ると「サン・ミニアート・アル・モンテ教会」が100倍面白くなる!!

「フィレンツェで最も美しい橋は?」と聞かれたら、多くの人が「ヴェッキオ橋(PonteVecchio)」と答えるでしょう。しかしながら個人的には、隣接している「サンタ・トリニタ橋(Holy Trinity Bridge)」がフィレンツェで最も美しい橋と言わせて頂きます。

その理由は至って単純でヴェッキオ橋からは美しいヴェッキオ橋の全貌が見えないが、サンタ・トリニタ橋に立ってみるとヴェッキオ橋のその壮大なすべての美しさが目の前に現れるから。よって、サンタ・トリニタ橋はフィレンツェで最も美しい橋と言えます。

同様に「サン・ミニアート・アル・モンテ教会」はフィレンツェ一美しい教会と言われることはありません。ですがファサードが建つ丘の頂上からフィレンツェの全ての教会を見ることができます。それこそが、「サン・ミニアート・アル・モンテ教会」がフィレンツェで最も美しい教会だと言える理由です。

ヴェッキオ橋                 サンタ・トリニタ橋               手前:サンタ・トリニタ橋 奥:ヴェッキオ橋

©MARIO RISTORI

■デザイナー フランチェスコに聞く、イタリアと日本の建築・デザイン

●イタリアからの影響、逆に日本が海外に与えた影響について

イタリアと日本の貿易は1866年より始まったが、目に見える形での影響が出るまで数十年を要した。

1904年にミラノのスカラ座で「蝶々夫人」が初演された。この物語の舞台が長崎となっているのは、イタリアと日本が互いに深く興味を持っていた証拠だと考えられる。そこから関係はより強化され、長崎の街並みにも影響をもたらしたと言われている。反対にイタリアでは19世紀、詩人のガブリエーレ・ダンヌンツィオが日本の俳句の魅力に憧れ、イタリア版の俳句を作成。イタリアと日本には文化においても歴史的結びつきが強いと言える。

●イタリアと日本のデザイン現場、制作について

先ず、制作プロセスが全く違うと感じる。イタリアでは腕のある職人が建築主になるが、日本では職人が建築主に従う。あくまでもこれは私の捉え方だが、基本的にイタリアでは現場で考えながら創り出す事が多いが日本では事前の準備や詳細な検証が優先される。イタリアと日本の現場や制作において「歴史的に受け継がれてきた伝統的な職人技や製造方法が根強く残っていること」は共通点と言える。

●イタリアと日本のデザインについて

イタリア、日本とも「第26回国連気候変動枠組条約締約国会議=COP26」に参加。今後、よりクリーンでグリーンな未来を目指す事が期待されている。建築においてもカーボンゼロとエネルギーの自律性が大きな目的として設定、導入されるのではないかと思う。

既にイタリア北部ではヨーロッパ北部の建築技術の影響により、エネルギーの自律可能な建築物が増えている。一方、日本では土地のコストや耐震性基準の影響でエネルギー自立型建築の開発が遅れる可能性は示唆されている。それでも一歩ずつ着実に前進することを期待している。

Francesco Ristori/フランチェスコ リストリ

国際デザイン事業本部 オフィス事業部 アーキテクト・デザイナー

フィレンツェ大学にて建築を学ぶ。卒業後はイタリアで住宅やリテールの設計、歴史的建造物の修復に数多く携わる。2014年の来日後はMetLife東京ガーデンテラス・オリナスタワー、HOTEL ARU KYOTO、Kosugi 3rd Avenue武蔵小杉など日本国内やアジアのオフィス、ホスピタリティー、レジデンシャル、商業施設、百貨店など幅広くプロジェクトに参加。

 

出典元

https://nigensha.hondana.jp/book/b559274.html

https://xknowledge-books.jp/book/9784767819624/

 

『人・デザイン・空間 』#1. 大谷 貞 Makoto Otani

2016年、GARDEに入社。PM、ローカルアーキテクト業務を経験した後、2021年より念願であったデザイナーとしてアパレルや大型商業施設、ホスピタリティなどのプロジェクトに多数参画。技術やセンスはもとより、その愛される人間性でも期待の若手デザイナー大谷貞を様々な角度から深堀しました。

■デザインや建築への興味のきっかけ

―大型の商業施設と、おもちゃ屋や釣具屋などの国道沿いの量販店は私の消費行動の原点にあり、商空間への最初の認識でした―

デザイン、モノ・形への関心は早い時期からありましたが、空間への興味はそこでの体験を主とした二次的なものだった思います。また、私自身のクリエイションの原点は昆虫採集に明け暮れ、現物や図鑑を見ては模写し模型を作っていた幼少期にあります。

そこから飛行機や戦車、プラモデルに興味が変遷し、現在の職業に通じる工業的なモノへの関心が生まれました。以降ギターや家具デザインへと。

また90年代の一時期を北京で過ごした私はよく家族、兄弟と百貨店に行きました。ゲームセンターから陶芸教室、食事まで半日くらいは施設の中で過ごしたと思います。また文化的な家庭だったので、あらゆるサブカルチャーのソフトが家庭内に散在していました。

映画では幼いころからバーホーベンやクローネンバーグ、デヴィッドリンチ、漫画は手塚治虫にはじまり水木しげる、つげ義春、石ノ森章太郎など。そんな中、ピアノの先生からもらったビートルズのベスト盤によって60年代を前後にしたサブカルチャーのとりこになり、ビートルズから派生しディランやケルアックにかぶれ、かなり重度の中2病に・・・。

 

 

 

 

●幼少期のプラモデル作りの熱はやがてプロダクトデザインへの興味関心に…

 

 

 

●自由にすくすくと育ち…武蔵野美術大学現役合格。鬼殺しの日々…。

■デザインに影響を与えるもの、積極的に取り込んでいるもの

―アイテム同士の組み合わせ方は空間内でのマテリアルの組み合わせ方と共通している能力だと思います―

衣服は「その場に似つかわしい、ごく普通・平凡」に装うことをかなり意識しています。個人的には、空間デザインに対する姿勢とも共通しているところがあると考えています。どちらも人体を対象にしていることから衣服と内装・建築の設計は距離感の違いだと感じています。衣類の縫製技術に関しては素材選びに始まり、パターン(平面)から人体(立体)へと構築していく過程は建築的に見てもとても面白くどちらもまた、しまいやおさめ方の手間が仕上がりを左右します。これらの技術的な興味以上に意識していることが、アイテムの組み合わせが或るコンテクストに沿ったものかどうか=意味的な合理性です。誰によって、何処で、如何にして作られたものなのかに始まり、なぜ今私がそれを選択したのか、ひとつひとつが納得のいく組み合わせになることを意識しています。この姿勢は可能な限り衣食住の各局面で実現したいと思っています。

■尊敬するクリエイターは

―恐ろしくも魅力的な情景やキャラクターに釘付けになってしまいます―

デヴィッドリンチ。もしかすると難解で高尚な作品だと思われているかもしれませんが彼の作品はよく見てみるとひとつひとつのモチーフはいい意味で俗っぽく、陳腐なものだったりします。私的で好き勝手な映画を作りながら、商業的にも成功している、面白い人だと思います。

■「マテリアルに対して良くも悪くも先入観がない」という彼。最後に、デザイナー大谷に今後のチャレンジについて聞いてみた。

経験者は素材から連想する空間が限定されているように感じます。例えば希少性や、制作の手間や輸送など様々な要素で素材の単価は設定されますが、それは決してその素材の良し悪し(ラグジュアリーかチープか)を決めるものではないと思っています。

空間を構成する他の要素にも言えるかもしれませんが、間合いに関しても「これ以上大きいと×」「これ以上小さいと×」など理にかなっていることもありながら案外根拠のないHow-toが蔓延しています。その辺は基礎として抑えながらも疑問視していきたいと考えています。妙に足りなかったり、妙に余っていたりすることに魅力を感じることも多いはずです。今後も、可能な限り多くを学び活かしていきたいと思います。

■大谷 貞 Makoto Otani

デザイン事業本部 大型デザイン課 デザイナー

2016年入社後はブランド事業本部PM課でインポートブランドの国内出店における内装工事のマネジメントを行う。2019年ブランド事業本部設計課にて、アパレルからコスメなどインポートブランドのローカルアーキテクト業務に携わる。2021年からは国際デザイン事業本部に所属しアパレルショップから大型商業施設、ホスピタリティのデザインを中心に国内外問わず様々なプロジェクトにデザイナーとして参画。

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