遊休資産利活用とSDGs

10月から12月の2ヵ月間、4回に渡り『遊休資産 廃校跡地の有効利活用』無料WEBセミナーを開催しました。近年、少子化による児童生徒数の減少や市町村合併などの影響により、公立学校が毎年500校程度廃校となっていることは皆さまも既にご存じかと思います。

本来ならば、地域にとって貴重な財産でありまた、地域の象徴的な存在でもあるはずの『学校』が、地域内で再活用のニーズが見出せず遊休化してしまうということは、地域にとって大きな損失であり、地域の安全や環境面においてもマイナスになっています。その様な背景からも廃校となった校舎の新たな利活用を見出すことは官民連携一体となり取り組むべきプロジェクトの一つとなっています。ここで重要なポイントとなるのは「SDGs」の促進も踏まえた上でのアプローチや戦略立案となっているかということです。人類と未来にとって極めて重要なアクションとして2015年9月にニューヨークの国連本部で開催された国連総会で採択されたこの「SDGs」ですが、今やあらゆる価値創造におけるベースと言えます。

そこで今回は、世界のSDGs戦略事例を通し、遊休資産利活用のキーワードを探りたいと思います。

■SDGsとは

2015年9月「私たちの世界を変革する:持続可能な開発のための2030アジェンダ/Transforming Our World: The 2030 Agenda for Sustainable Development」と名付けられた文章が国連総会で採択された。これはSDGs(Sustainable Development Goals)の名称で使われている持続可能な開発目標が記された文章です。“誰一人取り残さない/leave no one behind”を理念に2030年に向けた17のゴールと169のターゲットが設定されています。文章の冒頭には“人間・地球・繁栄・平和・パートナーシップ”全ての側面が絡み合うことで2030年以降の未来が見えてくることを謳った5つのキーワードが掲げられています。

◆5つのキーワード➡ https://www.unicef.or.jp/kodomo/sdgs/preamble/

◆17のゴールはこちら➡ https://www.unicef.or.jp/kodomo/sdgs/17goals/

■遊休資産の観点からSDGsを考える

#1.地方創生×SDGs 

SDGsのゴールである持続的に発展する世界、社会、地域コミュニティを考えるにあたり日本の地域社会、とりわけ地方の農村・中山間地域において急激な過疎化が懸念されています。地域の産業衰退や生活環境の悪化は、人口減少を加速化させ、最終的には地域コミュニティの衰退や集落消滅の危機を招くことにもつながります。地方自治体が行ってきた、人口増加を前提としたこれまでのような住民サービスの提供は、もはや困難となりつつあることが明確となった今、限られた人的・物的資源を最適な形で活用し、地域社会の維持と持続可能なコミュニティづくりに向けた新たなモデルを確立することが求められています。

2014年5月、「日本創成会議」(増田寛也座長)は、全国1800自治体のうち半数以上(896)が2040年には「消滅」する可能性があるとのレポートを発表、大きな衝撃を与えました。これを受け政府は、同年9月に「まち・ひと・しごと創生本部」を設置、地方創生への取組を本格的化させました。以降、地方創生においてSDGsを積極的に活用する方針が多く打ち出されています。

#2.社会・経済・環境×SDGs

SDGsは、「経済」「社会」「環境」を不可分のものとして捉え、それぞれが抱える課題をインプットとし、課題を解決しながら新たな価値をアウトプットしていくことです。ここで弊社の様な業態、業種が最も得意とする「デザイン思考/Design Thinking」の考え方が生きてくると考えています。これは、デザインの制作過程だけで活用されているわけではなくAppleやGoogle、P&Gなどのグローバル企業では、早くから経営や事業を展開していく上で積極的に取り入れており、日本企業でも近年、市場構造の変化を背景に一段と関心が高まっている思考法です。大きくは5つのプロセスで構成されます。

  • 観察・共感(Empathize)
  • 定義(Define)
  • 概念化(Ideate)
  • 試作(Prototype)
  • テスト(Test)

我々の様な企業や団体など、いわゆるステークホルダーが地域住民や自治体などから課題を吸い上げ、課題やニーズを定義しアイデアを出す、そのアイデアを元にプロトタイプを作成、実際に顧客やユーザーにテストを行いながら試行錯誤を繰り返すことで新たな製品やサービスを生み出し、課題解決につなげるというプロセスです。デザイン思考とは、単に表面化した問題や課題を解くのではなく、製品やサービスを使うユーザーの立場に立ち考え、根本的な解決策を探るのが特長と言えます。

以上の点からもSDGsのベースとなる“持続可能性”は“遊休資産利活用”との相性が良いと言えます。

■世界のSDGs

世界ではレジリエンスや共生をキーワードとしたSDGs実績が多数あります。それは個人、コミュニティ、組織、ビジネス、社会システムが社会課題に適応しながら持続的な成長を遂げる姿であるとも言えます。発展に伴う歴史的背景や異なるバックグラウンドを持つ地域住民にいかに共通のアイデンティティや愛着を持たせるかという課題に対し“協働・共創”を掲げ地域住民だけではなく企業やNGO、大学や第三セクターなどのステークホルダーが連携を図り、課題解決に繋げていくことです。ここでは、世界のSDGsとしてデンマーク、ヴァイレの事例をご紹介します。

●ヴァイレ/Veile(デンマーク/Denmark)

 

 

 

 

 

 

ヴァイレはヨーロッパ大陸側のドイツと国境を接するユトランド半島南部に位置、北欧諸国で唯一「100のレジリエント・シティーズ/100RC」に選ばれた街です。この「100RC」ですが2013年、アメリカのロックフェラー財団が開始したプロジェクトです。世界中の都市から100都市を選定し、財団の支援の下レジリエンス戦略を策定し、国際的ネットワークを構築するというものです。日本からは京都市と富山市が選定されています。
さて、ヴァイレに話を戻します。2016年、“皆が共に、持続可能な街”をスローガンに戦略が策定されました。特に市民参加、デジタル化、ソーシャルレジリエンス構築の3つを注力分野としています。近年ではIT企業やスタートアップ企業が多く誕生し経済とイノベーションの源泉となっています。スマートシティ関連サービスも多数生まれ、また、2012年にはデンマークで最も難民との社会的結合が進んでいる街として表彰もされています。
そんなヴァイレが抱える課題は大きく5つです。
① 気候変動と洪水リスク(近年、洪水、ゲリラ豪雨が多数発生)
② 都市化(交通量増加による自然環境への影響)
③ インフラへのニーズ増加(デジタルライフを支えるIT、既存インフラの老朽化)
④ 産業構造の変化、グローバルエコノミー(地域雇用への影響)
⑤ 人口動態の変化(社会的結合の弱体化)
そして、課題へのアプローチとして以下4つの戦略を掲げました。
❶ 共創が生まれる都市
❷ 気候変動に柔軟な都市
❸ ソーシャルレジリエント都市
❹ スマートな都市
先ず「共創」ですが、これは、“市民のエンゲージメントと共創”としてヴァイレが最も注力しているものです。具体的にはウェルフェア(福祉)ラボラトリーを立ち上げ、施設に住む障害を持つ市民と各分野のエキスパートのアート祭開催などを実施することで支援を行うなどです。また、2040年竣工予定でヴァイレが抱える課題とそれらの解決法を展示するエキスポの設置、各ステークホルダーとの協働による解決策の実践場(リビングラボ)の開発も進んでいます。
次に「気候変動」です。この、ヴァイレという名称が“フィヨルド”を意味する言葉が由来になっていることや12世紀、ヴァイレ川の支流にある谷間に人が住み着いたということからも、水が常に街のシンボルであり生活の一部であることが分かります。しかしながら、近年の気候変動により街に面するフィヨルドが2050年までに25cm、2100年には69cmも上昇すると試算されました。ヴァイレにとってシンボルである水が災害リスクを生む要因となっているのです。そこで、水害のリスクを最小限に抑えることを目的にフィヨルドに面する水辺の再開発を行い、そこに水位コントロール設備を備える計画が進んでいます。また自転車使用促進にも力を入れています。自転車の使用によって大気中のCO2削減はじめ、市民の健康とウェルビーング向上、ガソリン車が及ぼす社会的コスト削減も図れるため、街の中心部に自転車専用道路を整備するという計画も進んでいます。
最後に「レジリエントでスマートな都市」ですが、これは、言い換えると増加が続く移民と融合しながら街の安心、安全の確保、若い世代と社会とのつながりを強固にし、共有可能なリソースを官民一体となり作ることを目指すことです。
一例を挙げると、庭を持たない市民に畑を貸し出し、環境負荷が少ない有機作物栽培の機会を提供する「育てるヴァイレ」と名付けられた市民農園プログラムや市内の警察、学校、看護師、実業家、カウンセラーが共同で犯罪撲滅や不審者特定のためのプログラムやツールを共同開発するプログラムなど、新旧市民が街へのアイデンティティを持ち社会とのつながりを強固にすることを目的とした様々な取り組みが企画実行されています。
ヴァイレでは共創の実現に向け民間、行政、研究機関、第三セクターなどから異なる専門知識を持つ人々が集い、課題に対応するための新たなアイデアやサービスを思考、開発しています。そこからは、単なるソリューション開発ではなく、地域住民に寄り添い、対話する様子が見えてきます。
リビングラボ形式を用いたデンマークの「官民協働の場」作りはじめ、デンマーク、ヴァイレが進める様々なアプローチは遊休資産利活用にとって大変、参考になるものと言えます。

◆出典元
https://www.hanmoto.com/bd/isbn/9784761527839
https://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/oda/sdgs/about/index.html
https://www.unicef.or.jp/kodomo/sdgs/17goals/

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